不動産の広告規制まとめ|宅建業法・景表法・SNSの注意点
「チラシの表現、ここまで書いて大丈夫だろうか。景表法とか表示規約とか、正直どこまで守ればいいのか整理できていない」——チラシやWeb広告の文案を考えるたびに、こうした不安を抱く営業担当・店長は少なくないはずです。
結論から言うと、不動産広告の規制は宅建業法32条・景品表示法・不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)という3層構造になっており、それぞれ罰則や運用の主体が異なります。
加えて2022年の表示規約改正、2023年施行のステマ規制により、紙のチラシだけでなくSNS投稿やネット広告も規制の対象として扱われる場面が増えています。
この記事では、3つの規制の関係と違反時の重さ、2022年改正の実務上のポイント、SNSでの物件紹介やインフルエンサー起用時に注意すべき「広告・PR表記」の考え方までを整理します。
読み終える頃には、自社の広告表現をどの基準でチェックすればよいかが見えてくるはずです。
不動産広告規制の全体像——宅建業法・景表法・表示規約の3層構造
不動産広告を規制する法令・ルールは、大きく3層に分かれています。
①宅地建物取引業法32条(誇大広告等の禁止)、②景品表示法(優良誤認・有利誤認・指定告示)、③不動産の表示に関する公正競争規約(業界の自主ルール、公正取引協議会が運用)です。
この3つは重なりながらも、根拠法も罰則の重さも異なります。
宅建業法32条——監督処分に加えて刑事罰もある
宅建業法32条は、宅建業者が業務に関して広告をする際に、著しく事実に相違する表示や、実際より優良・有利と誤解させる表示を禁止する条文です。
違反した場合は監督処分(指示・業務停止等)に加え、6か月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその併科という刑事罰の対象にもなり得ます(同法81条)。
ここで重要なのは、実際に誤認した人がいたか、損害が発生したかを問わず成立する運用がとられている点です。
「結果的に誤解した人はいなかった」という反論は成立しません。
景品表示法——優良誤認・有利誤認とおとり広告
景品表示法は、事業者全般を対象にした消費者保護の法律で、優良誤認・有利誤認にあたる表示を禁止するほか、指定告示によって「おとり広告」など特定の表示形式も規制しています。
不動産のおとり広告に関しては、景表法5条3号と告示「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年公正取引委員会告示第14号)が根拠となり、違反すれば措置命令の対象になります。
おとり広告の具体的な事例や見分け方はおとり広告とは?不動産の事例・罰則・防止策【宅建業法】で詳しく解説しています。
表示規約——法律ではないが不動産広告への影響は大きい
表示規約は、法律ではなく業界団体(不動産公正取引協議会)が運用する自主規制ですが、実務上の影響は法律以上に大きいと言えます。
21条でおとり広告を明確に禁止し、27条では警告または50万円以下の違約金、警告に従わないときは500万円以下の違約金という規定を置いています。
さらに8条では、新聞折込チラシを含む媒体種別ごとに「必要な表示事項」を別表で定めており、チラシに何を書かなければならないかの実質的な基準になっています。
記載事項の一覧は不動産チラシの記載事項一覧|必須表示と違反になる例にまとめています。
宅建業法32条の誇大広告等の禁止——刑事罰まである重い規制
宅建業法32条の特徴は、行政処分だけでなく刑事罰まで規定している点にあります。
多くの業界の自主ルールが「厳重警告」「違約金」で終わるのに対し、宅建業法違反は監督処分に加えて刑事事件になり得るという重さがあります。
実際の運用では、著しい事実相違や優良・有利の誤認表示があれば、消費者からの被害申告がなくても行政の調査対象になることがあります。
規制の対象は所在・規模から交通の利便・価格まで
この条文がカバーする範囲は幅広く、物件の所在・規模・形質だけでなく、現在または将来の利用の制限、環境、交通その他の利便、代金や借賃といった対価の額とその支払方法、代金・交換差金に関する金銭の貸借のあっせんまでが対象です。
「駅から徒歩5分」「南向きで日当たり良好」といった表現も、実際と著しく異なれば誇大広告に該当する可能性があります。
チラシ制作の段階でこうした表現を扱う際の注意点は、不動産チラシの作り方完全ガイド|反響が出る構成・デザイン・規制まででも触れています。
広告表現の根拠を第三者に説明できるか確認する
実務上の対策としては、キャッチコピーや訴求文を作った後、毎回「その根拠となる事実を第三者に説明できるか」を確認する工程を挟むことが有効です。
感覚的な表現ほど誇大広告のリスクが高くなるため、数値や事実に基づく表現に置き換える習慣をチーム全体で持つことが、結果的にリスクを下げます。
景品表示法とおとり広告規制——存在しない・取引できない・意思のない物件の禁止
景品表示法における不動産広告規制の核は、おとり広告の禁止です。
表示規約21条では、おとり広告を①存在しない物件の表示、②実際には取引できない物件の表示、③取引する意思がない物件の表示、の3つに分類しています。
いずれも「反響を集めるための撒き餌」として使われてきた手法であり、規約はこれを明確に禁止対象としています。
措置命令は行政処分——事業者名も公表される
景表法側では、5条3号と昭和55年の告示「不動産のおとり広告に関する表示」が根拠となり、違反時は措置命令の対象になります。
措置命令は行政処分であり、事業者名も公表されるため、社名が知られている地場の会社ほど信用への影響は大きくなります。
表示規約側の違約金(27条。警告に従わないときは500万円以下)と合わせて考えると、おとり広告は「反響は出るが、発覚時のコストが極めて大きい」広告手法だと言えます。
厳重警告はポータル掲載停止にも波及する
もうひとつ実務で見落とされがちなのが、公取協から厳重警告等を受けた事業者に対して、大手ポータルサイトが掲載停止措置を取る運用が2017年から続いている点です。
行政処分や規約違反は自社サイトやチラシだけの問題では済まず、集客の主要チャネルであるポータル掲載自体が止まるリスクにつながります。
この点を営業担当・店長間で共有しておくことは、短期的な反響狙いの表現を抑制する意味でも重要です。
2022年9月表示規約改正のポイント——徒歩表示・名称使用基準の変更
不動産の表示に関する公正競争規約は、社会の変化に応じて改正が行われています。
2022年9月1日の改正では、実務に直結する3つの変更がありました。
分譲は最も遠い住戸からの徒歩所要時間も表示する
1つ目は、分譲物件について、最も遠い住戸(区画)からの徒歩所要時間もあわせて表示することが求められるようになった点です。
従来は代表的な1区画の距離だけを示すケースもありましたが、改正後は敷地内で最も駅から遠い住戸の所要時間も併記する必要があります。
これにより、分譲地の広告では「最短〇分〜最長〇分」のような表示が増えています。
徒歩時間の起点はマンションの建物出入口に明文化
2つ目は、徒歩所要時間を測る起点が明確化されたことです。
どこを基準に距離を測るかが曖昧だと、事業者ごとに表示のばらつきが生じやすく、結果的に誇大広告や誤認表示の温床になります。
マンション・アパートでは、従来の敷地の出入口ではなく建物の出入口を起点として測ることが明文化され、事業者ごとの表示のばらつきを減らす狙いがあります。
水辺から直線300m以内なら物件名称に使える
3つ目は、物件名称の使用基準の一部緩和です。
海・湖沼・河川の岸や堤防から直線300m以内であれば、その名称を物件名に使用できるようになりました。
従来は距離基準が厳しく、実際には水辺に近い物件でも名称に使えないケースがありましたが、改正によって一定の範囲まで使用が認められています。
名称を使う際は、直線距離が基準内であることを事前に確認する運用が必要です。
SNS規制とステマ規制——インフルエンサー投稿・物件紹介は「広告」表記が必要
SNSでの物件紹介やインフルエンサーへの依頼投稿も、規約や景表法の対象になる広告表示として扱われます。
2023年10月1日には景品表示法の指定告示に、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が追加されました。
いわゆるステマ規制です。
SNS規制——依頼・報酬があれば事業者の表示になる
この規制のポイントは、投稿の見た目が個人の感想であっても、事業者が依頼・報酬提供している実態があれば「事業者の表示」とみなされる点です。
不動産会社が物件のPRを依頼したインフルエンサーの投稿に「広告」「PR」の明示がなければ、依頼した不動産会社側が景表法上の責任を負う立場になります。
自社の公式SNSアカウントで物件を紹介する投稿であっても、写真の加工や表現が実際と著しく異なれば、宅建業法32条や表示規約の対象になり得ることは変わりません。
SNS投稿の「広告」明示を契約条件に入れる
実務対応としては、①インフルエンサーやアフィリエイターに依頼する投稿には例外なく「広告」「PR」等の明示を条件として契約に含める、②自社SNS運用者にも紙のチラシと同じ表現基準(誇大広告・おとり広告の禁止)を共有する、③投稿前に不動産営業部門が内容を確認する体制を作る、の3点が挙げられます。
SNSは「一度出したら手軽に消せる」という感覚を持たれやすい媒体ですが、規制上はチラシやWeb広告と同じ「広告表示」として扱われることを、投稿担当者全員が理解しておく必要があります。
広告規制違反を防ぐための社内チェック体制
ここまで見た3層の規制を個別に覚えるより、社内でチェックの仕組みを持つほうが実務的です。
具体的には、チラシやWeb広告、SNS投稿を出す前に、①表示規約8条の必須表示事項が入っているか、②誇大広告にあたる感覚的な表現がないか、③おとり広告に該当する物件(存在しない・取引不可・取引意思なし)が含まれていないか、の3点を確認するチェックリストを持つことが有効です。
チラシは表現がエスカレートしやすい媒体
特にチラシは反響を出すことが目的化しやすく、キャッチコピーの表現がエスカレートしやすい媒体です。
反響率を高める工夫と規制順守を両立させる観点は不動産チラシの反響率は?実データの目安と反響を上げる改善策でも扱っています。
また、ポスティングでエリアを絞り込む際にも、対象物件が実在し取引可能であることを事前に確認しておくことが、おとり広告リスクの回避につながります。
配布設計については不動産チラシのポスティング戦略|エリア選定と反響の出し方を参考にしてください。
テンプレートに必須表示欄を組み込んでおく
テンプレートを使って制作する場合も、フォーマット自体に必須表示欄を組み込んでおけば、担当者ごとの表記漏れを防げます。
不動産チラシの無料テンプレート集|エクセル・パワポ対応【2026年】のような雛形をベースに、自社の必須表示チェックを組み込んでおくのも一つの方法です。
不動産広告規制に関するよくある質問
Q. 宅建業法と景表法、表示規約はどう違うのですか?
宅建業法32条は国の法律で刑事罰の対象にもなり得ます。
景品表示法も国の法律で措置命令が対象です。
表示規約は業界団体(公正取引協議会)が運用する自主ルールで、違約金や厳重警告といった業界内の処分が中心です。
3つは重なる部分が多く、ひとつの表示が複数の規制に同時に触れることもあります。
Q. おとり広告とはどのような表示ですか?
表示規約21条では、①存在しない物件、②実際には取引できない物件、③取引する意思がない物件、の表示をおとり広告として禁止しています。
反響を集めるためだけに掲載を続ける「成約済み物件の掲載継続」なども該当し得ます。
詳しい事例は関連記事で解説しています。
Q. 2022年の表示規約改正で何が変わりましたか?
2022年9月1日の改正で、分譲物件(2戸以上)は最も遠い住戸・区画からの徒歩所要時間もあわせて表示することになり、マンション・アパートの起点も建物の出入口に明文化されました。
また、海・湖沼・河川から直線300m以内であれば物件名称に地名的な名称を使用できるよう基準が一部緩和されました。
Q. SNSでの物件紹介にも広告規制はかかりますか?
かかります。
SNS投稿もネット広告と同様に規約・景表法の対象となる広告表示です。
2023年10月施行のステマ規制により、事業者の依頼で投稿する場合は「広告」「PR」の明示が必要になりました。
自社公式アカウントでの表現も、誇大広告等の禁止の対象になる点は変わりません。
Q. 違反すると具体的にどんな不利益がありますか?
宅建業法違反は監督処分に加え6か月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその併科の対象になり得ます。
表示規約違反は警告や違約金(最大500万円以下)、景表法違反は措置命令の対象です。
公取協から厳重警告等を受けると、大手ポータルサイトから掲載停止措置を受けることもあります。
不動産広告規制を踏まえたチラシ・SNS運用の見直し方
不動産の広告規制は、宅建業法32条・景品表示法・表示規約という3層で構成され、それぞれ罰則の主体と重さが異なります。
おとり広告のように3層が重なって規制する表現もあれば、2022年の表示規約改正のように業界ルールだけが変わるケースもあります。
SNSやインフルエンサー投稿も、紙のチラシと同じ「広告表示」として扱われる点は、運用担当者全員が共有しておくべき前提です。
まずは自社が現在配布・運用しているチラシとSNS投稿を、必須表示事項・誇大広告・おとり広告の3観点で見直してみてください。
表現のチェックリストを作る際は不動産のキャッチコピー例文一覧|チラシ・広告でそのまま使えるも参考になります。
規制を正しく理解したうえで表現の幅を広げることが、長期的に反響と信頼の両方を守る近道になります。
出典・参考資料
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)——誇大広告等の禁止(第32条)、罰則(第81条)
- 景品表示法第5条第3号、および「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年公正取引委員会告示第14号)
- 不動産の表示に関する公正競争規約(第8条・第21条・第27条)——不動産公正取引協議会連合会
- 景品表示法の指定告示改正(ステマ規制、2023年10月1日施行)——消費者庁
- 大手不動産ポータルサイトによる掲載停止措置(公正取引協議会の厳重警告等を受けた事業者への対応・2017年から運用)
